PICK UP ACTRESS 岡本夏美
PHOTO=厚地健太郎 INTERVIEW=田中裕幸
舞台「春のめざめ」でヒロイン役に抜擢
心が大人と子どもの狭間……。
その瞬間を嘘がないように演じたい
――4月13日から上演の舞台「春のめざめ」にヒロイン・ヴェントラ役で出演することが決まった岡本さん。2017年に初演された本作を劇場で観劇して感銘を受け、再演の今回、オーディションを受けて、この役への熱い思いを伝え見事出演が決まったということですが、まずこの作品のどんなところに魅力を感じましたか?
「当時高校生の私にとってはとても過激だったんです。でもこういうことをちゃんと表現してくれる場所に出会えたことに感激しました。それに、白井晃さんの演出方法では、セットが抽象的だったりシンプルだったり、ホラーチックに見える部分があったり、艶っぽく見える場面があったりするんです。その中で役者たちがすごいエネルギーをもってお芝居されているのを観て、いろんな要素が効果的に混ざり合っている舞台だなと感じたので、すごく好きになりました。あとヴェントラという役が持つ気持ちの揺れとか、繊細な言葉の表現に心惹かれるものがありました」。
――このタイミングで再演されることが決まり、さらにオーディションにも受かるという、すごい幸運に恵まれました。
「まず再演があるというだけで嬉かったです。この作品自体が好きだったので、だけどオーディションをやるということも知らなくて、そのお話をいただいて『本当ですか!?』となりました。今回のオーディションは何人かが部屋に入って少しお芝居をするというよくある形ではなく、オーディションのときから白井さんと1対1でワークショップのような基礎訓練を含めて、ヴェントラとしてのお芝居もさせていただきました。楽しかったなぁ。その濃い1時間は充実していました」。
――実感こもっています(笑)。
「白井さんとしてはヴェントラを探す時間だったと思うんですけど、私にとっては白井さんに演出で言葉をかけてもらっていることが幸せでした。2年前に作品を観たときの衝撃や、この作品に携わりたいという思いがお芝居を通して白井さんに伝わればいいなと思いました」。
――それが伝わったのでしょうね。
「うれしいです。私としては奇跡的なご縁だと思っていますので、頑張りたいです」。
――今回ヴェントラを演じるにあたって考えていることは?
「14歳の設定ですけど、心が大人と子どもの狭間の瞬間って誰にでもあるじゃないですか。それは人それぞれで、中学生くらいの方もいると思うし、20歳超えてからもまだ子どもなのかなという思いを持っている人もいるかもしれない。20歳になった瞬間にパッと切り替わるわけではない。そういう貴重な瞬間を今回演じさせていただきます。細かな気持ちの揺れが多い世代だと思うので、嘘なく演じられたらなと思うし、ヴェントラが男の子たちにどう影響を与えるのかということもしっかり考えたいと思います」。
――とても繊細なアプローチになりそうですね。
「男の子と女の子で性的なものへの思いも違うだろうし、大人と子どもでまた違う。“性”と“生”って隣り合わせだと思うんです。まさしく“生”に心がついて“性”になる。成長していく中で性別で分かれる“心”があると思います。それは生きていく上で必要なことでもあり、だけど間違った方向に行ってしまうかもしれないというリスクもあって、そういうものをどう捉えていくかという作品。今の時代だと変にオブラートにつつんだり、そういうことに対して自粛みたいなことがあると思うんですけど、ちゃんと真っ直ぐにそういう問題について誰かが考えるきっかけになればいいなと思います。役に寄り添って繊細な部分は作り上げていきたいです」。
――初演でお客さんとして観たときもそういう思いを持ちました?
「思いましたね。普段あまり性別的な思考の違いって話さないじゃないですか。話してはいけないのかなという空気感や、話すことが恥ずかしいというテーマでもありましたし……。だからそういう心情が生きていく上で、要素としてどうあるのかを考えてなかったんですけど、この作品を観たときに、こんなにも隣り合わせなんだなということを気づかされました。また、この作品は100年以上前のものなんですけど、大人と子どもの関係性とか、宗教的な問題とか、性的なことも含めてしっかりとあらわにできない部分って今に通じるものがあるのかなって思いました。なので、今回の作品は考えるきっかけになればいいなと思います」。
――なんとなく自粛という雰囲気ってありますよね。そういう話、特に性的な話って家族でもしないでしょ?
「しない!」。
――お互い、なんか嫌でしょ。親の側も嫌だと思う。
「多分そうだと思います。私、学生時代に恋愛の話を親としたことがなかったんですよ。その頃って、恋愛に対して親に気を使ったり、親に変なことを考えさせるのは嫌だと思うじゃないですか。私が恥ずかしいというよりは、そういうのがあったからだと思うんですよ。そういう子どもの気持ちだったり、逆に大人の気持ちをこの作品では本当にストレートに表現しているので、新しい作風ではあるのかなと思います。観ていただいた人の心に影響を与えられたらいいなと思います」。
――今回の役に嘘がないように役に寄り添いながら、というのは大変な作業になりそうですね。
「体当たりで挑まなければならないシーンもあるので、大変な作業になると思います。でもそこで、変に甘えてしまうと作品としてのテーマが成り立たなくなってしまうので、ちゃんとヴェントラを通して傷ついたり、苦しんだりしていって、それで『春のめざめ』という作品の一部として爪痕を残せればいいなと思います」。
――資料に書いてある、「半ば強姦のように……」「妊娠が発覚……」といった字面だけでもすごい!
「そうですね。親もびっくりしていました。『この作品やるの?』って言われたんですけど、『私が2年前からやりたいと思っていた作品で、やりたいと思っていた役なんだよ』ということを説明して、『きっと観てもらったら普段考えないことを学べる』という話をしたときに、『そうなんだ、楽しみだね』と言ってくれました。字面だけだと衝撃的な言葉も並びますし、難しいのかなと思いますが、どこかで感じられるものがあればいいなと思います。主人公のメルヒオールやヴェントラと、自身の子ども時代や思春期を照らし合わせると、ささいなことでも共感できることがあると思うので、そういうところも届けられたらいいなと思います」。
とびきり美人のヒロインより、人生でつまずくときに
共感してもらえるような役が自分に合っている
――それにしても岡本さんが演じる役柄というのは、1月まで放送されていたドラマ「さくらの親子丼2」での由夏役もそうでしたし、体当たりで臨まなければならないハードなものが多い印象です。
「でも、たとえば苦しくて涙するというシーンでは、それを本番で演じている中で急に愛に変わる瞬間があるんですよ。苦しい瞬間を撮っていても報われる瞬間って絶対にあるし、それがお芝居の楽しいところだと感じるので、やめられないなと思います。そういう時間を、観ている方にちゃんと届けられる俳優という職業がやはり私は好きなので、まだまだですけど、自分の作品を通して届けたいなと思います」。
――愛に変わる瞬間というのは? たとえば役のことを好きになったりするの?
「役を好きになるというのもそうだし、その役が誰かに助けられたり、というのもそうです。涙しているときも、泣いているということで感情が表に出ている時間じゃないですか。それひとつで気持ちの蓋がぱかっと開いて、ぎゅっと押しつぶされていた苦しさが、愛に変わったり全身が温かくなったりするんです。その感覚はお芝居をやっていないと、多くは経験できないと思います。ありがたいなと思います」。
――「さくらの親子丼2」では、ずっとつっぱっていた由夏が最終回で号泣するシーンが印象的でした。
「あのシーンの撮影をしたときに、撮影が終わっても涙が止まらなかったんです。演じているときも、終わって客観的にモニターを見ているときも泣きやめなくて……。でもそれこそ、報われた瞬間ですね」。
――由夏はそれまで表情を崩すことがほぼなかったですからね。
「普段自分の気持ちに強がって生きてしまっている人が、後ろを向いてもいいのかなと思ってもらえれば何よりだし、そういうことを伝えられるというのがまず嬉しい。最終話の台本を見て『“泣いてもいいんだ”と思ってもらいたい』と思っていたので、自分が伝えたいことを、役を通して伝えられるというのはいいなと思います」。
――由夏に衝撃的な過去があったことが、最終回で明らかになりました。実際に過去の壮絶シーンを演じることはほぼなかったけど、今回の舞台ではハードなシーンを直接体当たりで演じることになります。
「今回のこの作品が、今まで生きてきた20年の中で最大の挑戦の時間になると思うんです。見え方とか仕事量という意味でのターニングポイントとはまた違うと思うんですけど、私自身の心のターニングポイントになるだろうなとは思っています。実際にそうなりたいなと思うので、現在と、この作品に入った後の心情が変わるように、悔いのないように挑みたいなと思っています」。
――今は楽しみであり、不安でもあり?
「そうですね。不安……、不安ももちろんあるんですけど、それをひっくるめた楽しさがあります。不安だと思う自分にも楽しいとワクワクしている部分もあるので、うん、大丈夫です」。
――「さくらの親子丼2」の由夏役もオーディションだし、今回の舞台もオーディションでした。岡本さんって演技力が要求される役柄を力でもぎ取ってきている印象があります。若手女優の世界では、CMなどで美少女として注目された人が指名され、王道ヒロインを演じているケースも多いですが……。
「そういうこともたくさん考えました。容姿が綺麗でCMにたくさん出演されている女優さんが指名を受けてお芝居をされているという作品もたくさん見ていますし、私もそうなれたらいいなと思ったときもありました。でも客観的に自分を分析してみると、とびきり美人のヒロインを選ぼうというときは、私を選ばないだろうなと思うんです」。
――そんなことはないと思いますが……。
「みなさんいろんな優しさもあり、そう言ってくださるんですけど、自分の分析では、カリスママドンナみたいなところではなく、人間が生きていく中でつまずくときにそれに共感してしまうとか、観ている人が自分に近しいと感じる役とか、そういうもののほうが、私の顔や性格は合ってるんじゃないかと思うんです。あと、一歩ずつ歩んでいくほうが私らしいなと思います。飛び級が苦手なんですね。ひとつひとつ、信じてやっていこうと思うことが多かったです」。
――普段クセの強い役の岡本さんが王道ヒロインを演じることは難しくなくても、その逆は難しそう。
「でも王道ヒロインの役も、私がやるには相当な準備が必要で、その役においての苦悩もあると思うんです。もちろん、ちょっと体当たりしなければならない役についての苦悩もあります。結局、どの役に対しても悩むんですけど、役の大きさで悩む量が変わるわけではない。今は伝えたいことが明確にあるような作品に出演させてもらっているので、そういう作品があると、よりやりたいなという気持ちが膨らんできます。とにかく何かを伝えたいなって思って仕事をしているので、そういう作品に惹かれていくのかなと思います」。
――前回のインタビューでは、「みなさんにお芝居を見ていただける機会が2019年ずっと続けばいいな」と話してくれていましたが、今回の舞台のほかに、映画とドラマの「BACK STREET GIRLS-ゴクドルズ-」もあります。
「ドラマ『賭ケグルイ』の新シリーズも始まります」。
――前シリーズでは岡本さんの“怪演”が話題になりましたね。
「キャラの濃い役、バックボーンの濃い役が多くて、普通の役がないんですよ(笑)。でも、もっと新たな役にも挑みたい。それこそ王道ヒロイン役もあるかもしれないから、これからどんな役に巡り会えるか、楽しみです!」。
岡本夏美(おかもと・なつみ)
生年月日:1998年7月1日(20歳)
出身地:神奈川県
【PROFILE】
2011年、「ラブベリーモデル・オーディション」でグランプリを受賞したことをきっかけにデビュー。2015年から2018年までは「Seventeen」専属モデルを務め、現在は「non-no」専属モデル。女優としてはドラマ「GTO」、「賭ケグルイ」、「さくらの親子丼2」、映画「台湾より愛をこめて」、「BACK STREET GIRLS-ゴクドルズ-」に出演。現在CHOYA「酔わないウメッシュ」、アラクス「PITTA MASK」のCMに出演中。
【CHECK IT】
舞台「春のめざめ」は4月13日(土)~29日(月)にKAAT神奈川芸術劇場で上演。その後、東広島公演、兵庫公演も開催される。
詳しい情報は公式HPへ